「住居として募集されているお部屋に事務所使用で入居することは可能なのでしょうか?」というお問い合わせをいただくことがあります。

基本的には「大家さんに訊いてみないとわからない」のですが、今回は「このような場合は可、このような場合は不可となりやすい」というような、あくまでも参考程度の【賃貸業界の一般論】をお話しますね。

需要が高まっている【事務所使用】

住居物件と比べると、事務所物件・オフィス物件はお家賃等が高めな印象を持っていらっしゃる方も多いかと思います。実際、住居物件の方が安価である場合が多いです。そのため、住居物件を事務所で使用したいという問い合わせは多くあります。

また、近年はSOHOという働き方も増えてきているため、さらに需要が高まってきているように感じます。

SOHO(ソーホー)は、Small Office Home Office=スモールオフィス・ホームオフィスの略称(Small Office Home Office)で、企業などから委託された仕事を、情報通信を活用して自宅や小規模事務所等で個人事業主として請け負う労働形態のことです。
(財団法人日本SOHO協会より引用 http://www.j-soho.or.jp/)

要は、自宅や小さなオフィスで、インターネット等を活用して事業を起こす働き方のことですね。
在宅ワーク・リモートワーク等も、もう定着してきた働き方でしょうか。

在籍している会社は別の場所にあって、働く場所を自宅にしているだけの場合は問題ありませんが、【個人事業主】として起業しようと考えている方は要注意です。

フリーランスなどの個人事業主の方は、税務署に開業届を出す必要があります。その開業届には、事務所の場所を記載する欄があります。そこに、大家さんや管理会社に相談無く、賃貸住宅である自宅を【事務所】と明記してしまうと、契約違反になってしまう可能性があります。

その物件が事務所として使用できるかどうか?という確認は、事前にきちんと行いましょう。

住居兼事務所ならOK?

賃貸住宅はその名の通り【住宅】ですから、【事務所・店舗】での入居は想定されていません。ただ、住居兼事務所の場合は「住居としてそのお部屋で住みつつ仕事をしている」という状態になりますので、許可が出やすくなります。

重要なのは、実際にそこに住まわれている・生活されている、ということなのです。

許可が出たら、契約の内容も変更となります。新規の契約の場合、特約欄に、「住宅としての使用と併せて、○○の内容の事務所として使用することを許可する」というような特約を入れます。既に住まれている方の場合は、契約変更の覚書を交わすことになります。(なかには、賃料アップなどの条件を付けられることもあります。)

「自宅とは別に事務所を借りる」となると費用もかなり掛かってしまいますよね。その点、自宅兼事務所なら、家賃や電気・ガス・水道・インターネットなどの固定費の支払いが1ヵ所で済みますし、家具家電も共用出来ます。コストパフォーマンスはとてもいいと言えるでしょう。

ただし、【住居兼事務所】は必要経費の申告誤りなどが生じやすいケースになりますので、それらは気を付けてくださいね。規模や職種によっては税金対策として、自宅とは別の場所を借りた方がいい場合もあります。レンタルオフィス等もありますが、家具家電付きのお部屋を借りるのも手かもしれませんよ。

また、事務所使用が可能かどうかの判断材料の一つとして、一番良く聞かれるのは「不特定多数の方の出入りがあるか?」ということです。
「事務所として使う」といっても、職種等によって、使い方は全く違いますよね。そのため、【不特定多数の出入りがない】【特定の人しか出入りしない】という使い方なら、大家さんもOKを出してくれやすいです。

次ページに一般的な例えを挙げます。

不特定多数の出入りがなければOK?

OKが出やすい
・出入りは社員数人のみで、来客のない会社
・店舗は他の場所にあって、事務仕事のみのために借りる場合
・訪問販売等のような、部屋を拠点として営業に向かう職種

OKが出にくい
・来客がある職種(士業等の固い職種でも来客がある場合は難しいかもしれません)

また、ネイルサロンやエステサロンを営業する為に普通のマンションのお部屋を借りられるか?というお問い合わせは多くあります。この場合は【店舗使用】という形になりますので、事務所使用よりも更にOKが出にくくなります。

賃貸マンションは、入居を許可された特定の方に貸し出す【集合住宅】になります。不特定多数の方が入れ替わり立ち代わりマンションに入る使い方だと、「他の住人の方が不安がられるから」と敬遠されるのです。

特にハードルが高いのは「オートロックが付いているマンション」の場合です。

住人の皆さんはオートロックによる防犯性の高さを感じて入居されているのに、とある部屋に不特定多数の方の出入りが多いとなると、不安を感じられてしまう方も居るでしょう。トラブルも起きやすいかもしれません。そうなると、「オートロック付きのマンション」である利点や魅力は減ってしまいます。

大家さんはそういうことを考えて、「不特定多数の方の出入りがあるか?」という点を判断基準にされているのです。

一階ならOK?

テナントビルでは、人の目につきやすい一階は人気が高く、家賃も高くなります。しかし賃貸マンションでは逆に、一階は不人気となっています。というのも、防犯面や日当たり等の条件的に、一階よりも上階の方が良いと考える方が多いからです。

そのため、一階であれば事務所使用もOKという物件も実際にあるのです。
事務所使用をするために賃貸マンションを探すのならば、敢えて人気のない一階に絞って探してみるのも良いかもしれません。

トラブルをなくすために

トラブルをなくすためには、【契約前に】事前確認をしておくことが大切です。
テナントビルであれば大丈夫な事柄でも、賃貸マンションを事務所で使用する時にやってしまうと嫌がられたり逐一確認が必要だったりする事柄はたくさんあります。
入居後にトラブルにならないためにも、なるべく細かな事前確認をしましょう。

例えば、表札について。

・エントランスの集合郵便受けのポストに、事務所名を記載しても良いか?
・自分の玄関扉やその周辺に、事務所の看板や表札を掲示しても良いか?
・掲示しても良い場合、サイズはどれくらいまで大丈夫なのか?

これらのことも勝手にやるのではなく、事前に確認しておきましょう。

また、税金や保険の面でも、【住居】の場合と【事務所使用】の場合で変わってきますのでご説明します。

税金・保険も違います!

まず税金についてですが、住居使用と事務所使用では、消費税の有無や固定資産税の税率が違います。

不慣れな大家さんがそのことを知らなくて、税理士さんから指摘されてから慌てて対処する場合もあります。「後から消費税分の家賃の値上げを要求された!」なんてケースも。

また、賃貸住宅を借りる時は、保険に入らなければいけないことがほとんどです。何かあった時に、大家さんへの賠償やご自身の家財に対する保険ですね。そういう保険は大抵が住居用になっています。

事務所での使用は、【住居用の保険】からは【対象外】となってしまいます。きちんと【事務所・店舗用の保険】に加入するようにしてくださいね。

ちなみに火災保険は火災だけでなく、水害・水漏れなどにも対応していることが一般的です。「保険料が高いから加入したくないなあ~」と思うかもしれませんが、自分が気を付けていても他の人が起こしたトラブルに巻き込まれてしまう場合もあります。わかりやすく書いたコラムもありますので、お時間があれば読んでみてくださいね。 

まとめ

基本的には、物件の所有者である大家さんがOKすれば事務所使用での入居が可能となります。しかし、大家さんの考え方や経営方針は外から見るとわからないものです。

また、契約や税金面等も【住居】と【事務所・店舗使用】では違ってきます。「バレなければいいや~」と思ってコッソリやってしまうと、後で大変なことになるかもしれません。ちゃんと大家さんに相談してくださいね。わからないことは、不動産会社さんに一つ一つ訊いてみてください。些細なことでも大丈夫ですから。

投稿者 なかざわ

マンション管理一筋20年のベテラン管理職。真面目な頭脳派、家族&猫(可愛い)と暮らす40代男性。得意分野は【賃貸市場の動向等のマーケティング分野】と【リフォーム等の住まいづくり分野】 知識量・経験値(失敗談含む)はライター内ナンバーワン。 [宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士]