賃貸マンションの壁を汚してしまった!補修費用は必要か?

こんにちは。賃貸物件の管理現場歴15年の山岡です。寒い日が続きますがいかがお過ごしでしょうか。
前回は「賃貸マンションの壁に穴を空けてしまったら」というお話をコラムにまとめましたが、今回は「汚してしまったら」というパターンのお話です。

前回コラムのリンクはこちら

但しすべての事例が以下に当てはまるわけではありませんので、このコラムは参考程度にして、最終的にはご自身がお住まいのマンション管理会社や大家さんに確認してくださいね。

前提①【原状回復】

原状回復については前回コラムに詳しく書いたので、そこから抜粋しますね。

まず前提として、賃貸物件を借りるときには、原則「借りた時と同じ状態に戻して返す」という義務が生じることを知っておいてください。

【民法621条】(賃借人の原状回復義務) 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年の変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。
参考:賃借人の原状回復義務/ 敷金に関するルール – 国民生活センター
https://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-201912_08.pdf(2021.12.22)

条文にある通り、通常の使い方による【損耗】や【経年の変化】は大家さんが費用を負担し元に戻します。それらを除く損傷は借りた側が費用を払い元に戻す義務を負います。
ポイントはまさにここで、壁の穴の大きさや数によって「通常の使い方だったかどうか?」が判定され、大家さん負担か借りた方の自己負担かが変わってきます。

壁の穴【汚れ】に変わるだけです。借りているお部屋の壁の汚れ具合によって「通常の使い方だったかどうか?」が判定され、補修費用をどちらが払うのかが決まるのです。

また、壁は普通に生活しているだけで汚れていくものです。ある程度お手入れや掃除をしていても、どうしても汚れていってしまいます。それは上記の【経年の劣化】にあたり、大家さんが費用を負担する分になります。そのため「通常の使い方」と認定されれば、だいたいの「汚れ」に対して補修代の請求はされません。

では、「通常な使い方」の「通常」とは何か?人によって違うのでは?と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。
賃貸マンションを借りるには、もうひとつ重要な前提があります。

前提②【善良な管理者の注意義務】

賃貸マンションは「借り物」ですので、きれいに使い、最後はきれいに返す為に善処しなければなりません。これを【善良な管理者の注意義務】と言います。「入居者は善良な管理者であるのが通常」だという考え方です。

たとえお部屋の○○ (汚れ・穴・水漏れ・割れ等)が入居者自身の起こしたことではなくても、それをしかるべきところに相談・解決するのは今お部屋を管理して(借りて)いる入居者さんの義務になります。それが「最後はきれいに返すための善処」にあたるからです。○○を「放置する」のは善良な管理者ではありません。むしろその放置によりさらに傷んでしまったら、原因は違っても「入居者さんのせい」でお部屋が傷んだと判定されることもあります。
自分で解決できないなと思ったことはなるべく早く管理会社か大家さんに連絡してください。

さて、二つの前提から「善良な入居者の賃貸物件の使い方は通常である」という指針が出来ます。善良な方は借りたお部屋に雑な扱いはしないし、なるべく綺麗に使って綺麗に返してくれるだろう。こういった一種の信頼を置いて賃貸物件の貸し借りが実現しているのです。
(一般的な賃貸契約書にはどちらも明記されているかと思います。)

「通常」という言葉の曖昧さに悩む場合もありますが、「一般的な」「多くの人が」こう思うだろうというだけでなく、「お部屋を借りた人は善良な人」という考え方も「通常」のうちに入るということです。そのことを頭の片隅に入れたまま、以下の事例を見てくださいね。
判りやすいものから微妙なものまで、私の経験から見た壁の汚れの「セーフ」(補修費は大家さん負担)と「アウト」(補修費は借り主負担)の事例をご紹介します。

壁の汚れ「セーフ」の事例集

① エアコンの取り外し跡

昨今の夏の暑さは、室内でも熱中症を引き起こします。エアコンを付けない訳にはいきません。汚れだけでなく穴も空きますが「普通の生活を送るためのエアコン」ですから、こちらはセーフになります。

ちなみに賃貸マンションに元から付いていたエアコンは大家さんのものなので引越しの際に持っていかないでくださいね。故障などの場合も大家さんか管理会社に相談してください。逆に、エアコンが付いていない部屋にエアコンを自分で買って付けたい場合も壁に穴をあける必要がありますので大家さんか管理会社に相談してください。

② 通気口周辺の汚れ

通気口とは、外からの空気を室内に取り入れるための入り口(吸気口)です。換気扇はその逆で室内の空気を外に出すための出口(排気口)です。窓を開けなくても、換気扇と通気口で部屋の空気を入れ替えることができるようになっています。

空気が出入りするところの周辺は汚れが付きやすくなります。定期的に掃除していたとしても、です。特にマンションの立地が幹線道路など大きな道路沿いの場合、車の交通量が多く外気が汚れやすいので、吸気する際に周りの壁がどうしても黒ずんでしまいます。通気口を塞げば汚れませんが、それでは何のための通気口かという話になります。室内の空気を定期的に換気しなければ結露やカビの原因にもなりますし、健康上よくありません。外気の汚れや花粉等が気になる方は、通気口用のフィルターが色々と市販されていますので、そちらを設置するとマシになりますよ。

③ 冷蔵庫裏のクロス焼け

ひと昔前は冷蔵庫の裏のクロスがよく黒く焦げ付いたように焼けていました。昔の冷蔵庫は、裏にモーターが露出していたのです。モーターの熱が伝わり、壁が黒ずんでしまうのは、構造上仕方がないことでした。
最近の冷蔵庫はもうモーターの露出はありませんが、まだ古い冷蔵庫を大切に使っている方もいらっしゃいます。冷蔵庫の寿命は10年程だそうですが、まだ壊れていないからと30年前に購入したものを使用しているという話も聞きます。
一般的には冷蔵庫は生活必需品なので、置かない訳にいきません。
冷蔵庫は壁と少し離して設置することが常識かと思いますが(取扱説明書に何センチ離して設置するかが記載されています)、限られたスペースで壁と冷蔵庫の間を離すのにも限界があります。
そのため、冷蔵庫による壁紙の焼け跡は「セーフ」です。

壁の汚れ「アウト」の事例集

① 落書き・インク等の汚れ


小さい(小さかった)お子さんが壁紙に落書きをしてしまった、というのはよくある話です。ファミリー物件の退去時にはほっこりする絵に出会うことがあります(笑)。ただ、子どもさんがやったこととはいえ、目をつぶる訳にはいきません。こちらは「アウト」判定になりますので、心を鬼にして補修代を請求しています。

② ○○を放置したことで付いた汚れ

前提②でお話しした通り、○○が自分のせいではなくても放置して部屋が傷んでしまった時、放置したことは自分のせいになります。

例えば、こちらの写真は「壁についた結露を放置したことで発生したカビ汚れ」になります。結露を定期的に拭く等の善処をしていれば、このカビ汚れは発生しなかったと判定され「アウト」になった事例です。
窓の傍はカーテンで見えにくくなっているかもしれませんが室内と外の温度差や湿度差で結露ができやすい箇所です。「借りたお部屋をなるべく綺麗に返そう」とするのならば、定期的にチェックや清掃をお願いいたします。

状況によりセーフかアウトかの判断が変わる事例

「状況」とは、たとえば「その部屋にどれくらいの期間暮らしていて、その汚れが付いたのか」という点などです。
ただ壁が「白いからセーフ」「茶色いからアウト」と判断されるのではなく、同じ汚れ具合でも「たったの1年でこの汚れが付いたの?その使い方はアウト!」「4年住んでいてこの汚れならそんなもんでしょ、セーフ!」と判断が変わるのは、当たり前ですよね。
いくつかお写真を用意したので比べてみましょう。

① キッチンの油汚れ

キッチンは油も火も水も使いますし、冷蔵庫や食器棚も置きます。そのため汚れや跡が付きやすい場所と言えます。

油ハネの汚れ「セーフ」の場合


こちらは5年程の入居でこれくらいの汚れは仕方のない範囲として「セーフ」になりました。

油ハネの汚れ「アウト」の場合


こちらは1年程の入居でこの汚れ方です。さすがに「綺麗に使用しようという気が見えない」という判断で「アウト」となりました。

② スイッチ周りなど汚れやすい箇所

生活するうえで良く触る壁紙部分が、他の場所よりも汚れやすいのは仕方のないことです。「壁に一切触らずに生活すること」を「通常の使い方」とする方が無理な話です。そのため、スイッチの周りやベッドの周り等は汚れやすい箇所とされセーフになりやすいです。が、それにも限度があるという事例のお写真も撮れたのでご紹介します。

スイッチ周り「セーフ」の場合


こちらはスイッチの左側が黒ずんでいますが、長期間入居されていたので「セーフ」と判断されました。

スイッチ周り「アウト」の場合


こちらも長期入居のため全体的に壁が汚れていますが、特にスイッチの下には何か液体が垂れたような染みがあります。よっぽど汚れた手で触ったのか、何かをこぼしたのか……。「汚れた時に拭いておけばここまで酷くならなかったのでは?」と、この部分は「善良な管理者の注意義務」に違反していたという判断になり「アウト」でした。

③ クロスの変色

基本的に、日焼けによる色飛び等の然現象によるものは不可抗力です。普通に生活をしているだけで日光などにより壁紙の色は少しずつ変わっていくものなので「汚れ」というよりも【経年劣化】にあたります。

変色「セーフ」の場合


こちらの壁紙は全体的に汚れていますが、10年程住んでいただいた後なので「セーフ」です。日焼け以外にも、10年間の調理による汚れの蓄積も加味された上での「セーフ」となります。
ポスター・カレンダー・絵画等を貼っていたのかな?と推測される跡もあります。暮らしているお部屋に、それらを貼ることもあるでしょう。「壁は真っ白なまま何も貼ってはいけません」では部屋があまりに殺風景ですよね。

画鋲等での設置による穴についてはこちらのコラムに書いてありますのでご参考にどうぞ

変色「アウト」の場合


壁紙の変色の原因が「ヤニ汚れ」の場合は「アウト」です。
ヤニ汚れは「日焼け」ではなく「タールによる着色」になり、壁紙を白→黄色→茶色と変色させてしまいます。もし色が変わっていなくてもタバコの臭いが壁紙に付いた時点でアウトです。臭いも汚れの一部と考えられます。(臭いが付いたままだと次の入居者さんも嫌ですよね。)
退去立ち合い時、入居者の方に「拭いたら取れる」と言われたこともありますが、それは「じゃ、前もって拭いて臭いも汚れも取っておいてください」という話です。
そもそも普通の清掃ではその独特な臭いもヤニ汚れも取れません。ある程度なら取れる技術もありますが、それは特殊清掃になります。もちろん料金も高くなりますし、特殊清掃を採用するかどうかは大家さん次第ですので、クロスの張替え代を請求されても文句は言えません。それだけで終わればまだ良いですが、ヤニ汚れが酷く全体的に茶色くなってしまったお部屋はクロスの張替えだけでは臭いが取れず、ボードの貼り替えまで実施したこともあります。(その分請求額は上がります。)

もちろん「ポスターや家具類の跡の部分は白いから、その部分だけセーフ」なんていうこともありません。それどころかヤニ汚れの確固たる証拠とされてしまいます。

ちなみに「タール」はタバコの煙に含まれる植物樹脂になります。独特の匂いを放ち、壁紙だけでなく家具や窓ガラスにも汚れが付きべたべたしてきます。油汚れで粘着質なため、非常に落ちにくい汚れとなるのです。
電子タバコ・加熱式タバコは普通の紙タバコに比べてタールの配合が少なく、ヤニ汚れの被害も少なくなるそうですが、それでもタバコを吸わない住み方よりは汚れます。そして独特の匂いはどんなタバコでも付いてしまいます。

喫煙者の方には厳しい世の中になってしまいましたが、賃貸マンションでは「タバコを吸うことは通常の使い方ではない」と判別されています。最近では、ベランダで吸ってもキッチンの換気扇下で吸っても、煙が回ってくると周りの部屋からクレームが来ることもしばしばあります。
私はタバコを吸いませんが、個人的には喫煙者の方の肩身の狭さには本当に同情します。

④原因不明な汚れ

色々と「壁の汚れ」のお写真を撮ってきましたが、正直、いつ何が原因で付いたのかよくわからない汚れはたくさんあります。


この二枚の写真は、原因はわからないけれど長期間の居住だったため「セーフ」となった汚れです。
もしこれと同じ汚れが短い期間の入居で付いた汚れだった場合は「アウト」になることもあります。ふたつが同じ扱いになることはありません。

入居期間が半年のお部屋の退去立ち合いに行った際に「原因は特定できないけど、なんかめっちゃ汚い」とか、たまにあります。その場合はもう、入居者さんと管理会社・大家さんの両者で話し合いをして、どちらが費用を負担するか決めるしかないですよね。

補修方法・金額

賃貸物件を次の入居者さんに貸し出すためには、汚れをきれいにしなければなりません。ここでは3パターンご紹介します。
金額は実際に施工する業者さんによって差があります。が、みなさんの知りたいところでもあると思いますので、私の勤める賃貸物件の管理会社長栄ならこれくらいの請求額かな、という目安を掲げておきます。

① クリーニング

ちょっとした汚れなら、拭き取り・洗剤で洗う等で除去できる場合があります。金額もお安く5,000円以内でおさまることがほとんどです。但しこの程度で落とせる汚れであれば、ほとんどが上のセーフの事例に入り、入居者さんに補修代を請求することもありません。言い換えれば、補修代を請求されている時点でクリーニングでは対応不可能なので「クリーニングで何とかして」とお願いしても、残念ながら「無理」と言われる可能性が高いです。

② クロス張替え

代表的な補修方法ですね。壁の表面を新しいものに替えてしまうので、汚れの度合いに関わらず対応可能です。
クロス張替えの請求単位はm(メートル)になります。㎡(平方メートル)ではありません。壁の面積ではなく長さが請求単位になるのは何故でしょうか?これについて話し始めると一つのコラムが出来上がる程の分量になるので、ここでは簡単にサラッと説明しますね。

クロス(壁紙)は一般的な商品の場合、幅90cmのロール状になっています。それが何メートル必要か?という考え方です。
1mあたりの単価は900円~1,500円くらいでしょうか。壁を汚した部分だけでなく一面分の請求をされることが多いです。洋室の壁1面で11m~15mくらいですので、仮に1,000円/mで計算すると11,000円~15,000円といったところです。

(個人的には「幅を90㎝ではなく100cmにしてくれたらそのまま㎡で計算できるのに……」とよく考えていましたが、これは仕方ありません。もしかしたら何年後かには変わるかもしれませんが、今は幅90㎝が一般的なので仕方ありません。2回も仕方ないと言うくらいには何度も「100㎝なら……」と考えたことがあります)

③ 塗装

ペンキ塗装されている壁にはクロスが貼れませんので、塗装費用を請求することになります。この場合は塗装した面積を㎡で計算することは可能なのですが、実際に工事をするとなると、職人さんの作業時間によって金額が左右されます。これも詳しく書くときりがないのでサラッとまとめますと「塗装に必要な全体の工事費用を算出して、該当部分の割合分を請求する」という感じになります。

対処法

最後に、汚れを付けてしまった場合の対処法を紹介します。
ズバリ!すぐに掃除することです。
汚れがついてから時間が経つと、とれるものもとれなくなります。とにかくすぐに拭きましょう。拭き方は以下の順で試してください。
やり方や道具によっては、ゴム手袋をしたり換気をしたりしながら進めてくださいね。洗剤等は説明書を読んでから使ってください。

壁がクロスの場合
乾拭き → 水拭き → 室内用拭き取り洗剤(かんたんマイペット・クイックルホームリセット等) → 油汚れ洗剤(マジックリン・ウタマロクリーナー等) → メラミンスポンジ(激落ちくん等)
壁が塗装の場合
乾拭き → 水拭き →  メラミンスポンジ(激落ちくん等) → シール剥がし

基本的には強い力で広範囲を擦ったりせず、まずは小さい範囲をそっと慎重に掃除してください。汚れを落とそうと思ってやったのに、より傷つけてしまった!となっては元も子もありません。
そして汚れがとれたらその時点でやめて、矢印の先には進まないで下さい。なぜなら、壁に負担がかかるからです。壁の負担になりにくい順に明記しています。

特に塗装壁の場合、「シール剥がし」まで進むのは賭けです。どうせこのままでは補修代を請求される、という状況ならやってみる価値はありますが、下手するとペンキが全部剥がれて下地が出て来てしまいますので気を付けて下さい。それほど強力な方法です。

個人的には、メラミンスポンジでそっと擦ってもとれない汚れは「素人には落とせない壁の汚れだ」と思って諦めた方が無難だと考えています。メラミンスポンジは汚れを「削り落とす」ためのものです。必要以上に擦り過ぎると、表面のコーティングまでもが削られてしまう道具なので、使い方に注意が必要です。壁紙の場合、メラミンスポンジを使用後更に汚れが付きやすくなってしまったり、模様や色が削り取られてしまったりすることもあります。程度によっては結局クロス張替えの費用を請求されることもあるので、例によってやり過ぎには重々注意してください。

また、これらの方法を試した後に水気や洗剤が壁に残らないようにしてください。シミやカビの原因になる場合もありますので、仕上げに水拭き→乾拭きで終えてくださいね。

まとめ

ここまで色々と書いてきましたが、あまり神経質にならずに、ストレスにならない範囲で注意していただければ良いかなと思います。アウトの事例も、普通に住んでいればほとんど発生しないはずです。「あまりに短い期間で出ていくことになってしまった」という場合にだけ、ちょっと気を付けてもらえれば充分だと思います。
それでも気になる、という心配性な方はこのコラムを参考にしてストレスの元を取り除いちゃって下さい。

念のために最後にもう一度、

・セーフかアウトかの判定は管理会社や大家さんによっても異なること
・汚れを落とすための掃除のせいで壁をより傷つけてしまわないように気を付けること

このふたつを念頭において、このコラムは「ベテラン管理人による参考事例」程度に留めてくださいね!

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