※前回の時と同じく、登場人物にはモデルが居て内容も事実を含みますが、これはフィクションの小説風コラムとしてお読みください。

波さんは、賃貸マンションの管理会社へ入社して1年と半年。二級建築士の資格を持っており、会社が所有している物件の設計デザインをする部署に所属している。主に、中古マンションの外壁・エントランス等の共用部や、入居者募集を行なう前の部屋をリノベーション・リフォームする際の設計・デザインに係わる仕事をしている。少しずつ、部長からの感覚的な指示を、自身で明確化していく作業にも慣れてきた頃だ。

前回の記事を読んでいただければ、彼女を取り巻く環境が少し理解しやすいかもしれない。


 

1.管理人室を改造せよ!

 
部長が波さんのデスクまでやってきて、ぺらりと1枚の平面図を渡した。

「これを部屋として入居者募集をしたいんです。」

部屋として?というクエスチョンマークが頭を横切りつつ、平面図を見てみると、それは会社が購入したばかりのマンション1階部分だった。赤ペンで丸く囲まれていたのは、エントランスから少し入ったところにある管理人室だ。

「あ、なるほど、管理人室を住める部屋にしてってことね。」

と波さんは頭の中で独りごちた。

その部屋の間取りは、玄関と、その横に土間で続いている約3帖の小部屋。そして廊下、クローゼット、1.3帖のミニキッチン、トイレ、約8帖の洋室。小部屋には盤類と書かれているから、消防や電気設備が集約されているのだろう。

部長は相変わらず柔和な物腰で話を続けた。

「この物件の管理人室を、一般的な一人暮らし用のお部屋に変えたいなと考えています。キッチンとトイレはすでに有るので、この、小さい方の部屋、このスペースに浴室・洗面・洗濯パンを設置できないかなと。」

「ここにある電気設備とかはどうしますか?」

「外部に移動させましょう。ちょっと、行政的に大丈夫か等の確認もしてください。」

「わかりました。」

行政、という言葉にドキリとした。建築関係の大きな変化、リノベーションをする際には、建築基準法や消防法という法律だけでなく、市町村よって異なる条例の細かな規定も遵守しなければならない。今回はかなり特殊なケースなので、念のために事前に市の建築指導課への問合せが必要だということだ。が、波さん自身はそういった問合せをまだしたことがなく、今回が初めてとなる。小さなことかもしれないが、社会人として経験が浅い内は、こういう体験に逐一ドキリとしてしまうものなのだろう。

2.【管理人室】とは?


波さんは、そもそも【管理人室】とは何か、というところから頭の中の情報を整理することにした。

戸数の多い大型マンションには管理人さんが常駐するための管理人室が設けられていることもあるが、いまどきは管理人室のあるマンションも随分と減ってきている。そもそも管理人室がないところも多い。在ったとしても、10㎡未満と狭い部屋に清掃用具等を置いて【管理人室】としているところが多い。また、そういった管理人室の有無や広さに関して、各市町村が条例で詳細を定めている場合も多いらしい。

更に、常駐と言っても昔のように【住み込み】という形で事務所+住居の【管理人室】に管理人さんが居るマンションはもう特殊なケースとなり、今は日勤方式(9~17時に出勤してくるような形態)や、巡回管理方式(週に数回巡回する等の形態)で管理されているところがほとんどだ。

そう、波さんの働く管理会社でも、基本的には巡回管理方式で管理を行っているため、該当マンションの管理人室も今は使用されていない状態なのだ。しかも、この管理人室は25㎡ほどの広さがあり、それは一人暮らし用のワンルーム・1K・1DKの標準的な広さに値する。ここを活用するために、リノベーションに踏み出すことになったということだろう。

3.行政とやり取りせよ!

再び図面に目を戻す。間取りの横に小さく書かれている文字を読み解くと、小部屋にあるのは消防やポンプの警報関連の設備のようだ。これを外部に移設し、代わりに水周りを設置したいということらしい。そういったことが条例的に可能なのかどうかを確認するところから始めよう。

質問事項をまとめたメモを片手に、頭の中で何度も台詞を反芻する。よし。呼吸を整えて白い電話の受話器を耳に当てる。ひんやりと冷たい気がする。電話の呼び出し音が聞こえると、より緊張が高まった。会話している声が、なんだかいつもの自分の声とは違う気がした――。

どうやら、管理人室を住居として貸し出せるように改装することは、条例等の視点から問題ないらしい。電話を終えると、波さんは自分の体温の高さに驚いた。ああ緊張した。市の建築指導課とやり取りをするというファーストミッションはクリアしたぞ!と大きく一息ついて、少し落ち着いたようだった。これで前に進める。

4.消防設備を移動させよ!

初めてのやり取りと言えば、消防設備・給水ポンプの警報盤の移設の手配もなかなか大変だった。まず、消防設備などは移動させる時には申請や届出等が必須だ。中には期限が短く、工事を終えてから4日以内に提出しなければいけないものもあると聞いて驚いた。(設備の種類や建物規模により省略できる届出はあるらしいが)

消防設備や給水ポンプの警報盤というのは、いざという時のためのもの。設置場所なども消防法によって細かなことが厳しく定められている。それらを踏まえた移設場所を考えるため、今回は現地確認の時点で、法律や機材のシステムを熟知している消防設備士さんと配線工事業者さんにも入ってもらい、一緒に話し合った。

その結果、マンションの1階部分にあるバイク置き場が、安全で費用が抑えられる移設場所だろうと結論付けられた。

電気配線工事は、とても危険を伴うものだ。不用意に配線に触れて感電した、火事が起こったという実例もあり、国家資格をもったプロしか許されていない作業がたくさんある。ただ壁・天井の中に隠して配線すればいいというわけではない。今の場所から新しい場所までの配線延長の計画をなるべくコスパ良く立ててもらい、回路・配線を図面に設計してもらってから、作業が行なわれた。

配線を移設場所まで延長してもらってから、再び消防設備士さんに来てもらい、やっと消防設備・給水ポンプの警報盤を移設できた。

更に移設後には、消防署の方が立会う消防検査まで行なった。消防設備は実際に正しく作動するかどうか等のテスト点検も行なうため、設置者である消防設備士さんも一緒に立ちあってもらった。

申請・届出の作成、人の手配、スケジュール調整、配線計画を反映した図面作成、作業工程の確認、現地でのさまざまな確認、立会い検査などなど、いろんな方と協力してやらなければいけないことが沢山あった。それほどに、建物に対する【防火対策】というのは重要なものなのだと、波さんは改めて感じた。

5.新しい間取りを完成させよ!

さて、波さんはそれらと並行しながら、具体的な間取りも考えなければいけない。

現地確認では、細かく長さを測っていく。メジャーの数値も逐一写真を撮って保存して行くため2人がかりだ。地味だが、ここで間違えると後の作業が全てやり直しになってしまう重要な作業。測り終えると、それらの数値を共有できるデータに起こす。図面はもちろんだが、直感的にわかるメモ的な画像も作成する。

問題の約3帖の小部屋は2073×2305のスペースだった。(つまり2m7.3cm×2m30.5cmのこと。メートルではなくセンチで統一するのが業界の習わしだ)この中に浴室・洗面台・洗濯機を置く洗濯パンを収めるのが、なかなか難しかった。

感覚的な指示をしがちな部長からは「浴室は1216サイズを入れて欲しい」と言われていた。1216サイズとは1200×1600のことだ。入れるとこんな感じになる。

これでは洗面台と洗濯機の配置がどう頑張っても無理だった。

色々と試行錯誤の結果、浴室サイズを1410サイズ(1400×1000)に変更したら、洗面台と洗濯パンも配置できるスペースが生まれて落ち着いた。

しかしその後も、配置プランがどうも部長のお気に召さなかったらしく、結局4回もプランを考え直した。最後の最後には、洗面台と洗濯パンの場所を逆にするようにという具体的な指示が来て、書き直し、ようやくしっくりときてOKが貰えた。

更に、1階でベランダがない部屋だったため、浴室に浴室乾燥暖房機を付け、洋室に室内用物干し(折り畳みができて邪魔にならないもの)を設置することを提案し、採用された。自身の提案が通ると、やはり波さんも嬉しそうだった。

新しく書き直した間取りがこちら。

もちろん今回もイメージパースを作成する。この部屋の内装はシンプルで落ち着いた感じになった。柱と梁部分には温かみのある木目調のアクセントクロスを貼り、床は広く感じられるように明るい色のウッドタイルを選んだ。
ウッドタイルとは、フローリング調の木目がリアルに再現されたビニル材のフロアタイルのこと。フローリングとは違い一枚ごとの張替えができ部分補修が可能だったり、日々のメンテナンスがしやすかったりと利点が多い。

6.Before→Afterを見比べよ!

それでは、今回のリノベーションのBeforeとAfterの全貌を、実際の写真でご覧頂こう。(自然と脳内にとあるBGMが流れてくる方もいるかもしれない)


まずはエントランスに入って直ぐの共用廊下から。ザ・管理人室然としていた小窓は厳重に塞がれて、新たな掲示板が設置された。

そして何度も配置を書き直した元管理人室の小部屋は……
(さあ、あの言葉を脳内再生するのは読み手の皆さんの自由ですよ)

適切なサイズの浴室が入り、しかも乾燥暖房機も設置。大きな洗面台と、洗濯パンも新設できた。

キッチンとトイレの間取りは変えなかったものの、新しいコンパクトキッチンに入替えたりアクセントクロスをあしらったりと、ここも生まれ変わっている。

そして約8帖ある洋室へ。

洋室は、カーペット敷きから明るい乳白色のウッドタイルに張り替えられた。壁のクロスには、一部アクセントクロスを採用し、メリハリのある落ち着いた部屋に。大きな窓はあるがベランダがないため、折りたたみ式の室内物干しも設けた。

7.費用対効果を考えよ!

前回のミッションでは、部長に「賃貸マンションの改修・改装は、費用対効果を第一に考えないといけません。」と言われ、予算という高い壁を感じて苦労をした。今回は工事費用などが総額で180万円程かかった。リノベーションに宛てる費用として、金額だけで見るとかなり高額な方だった。なんせ、前回はプラン第一校で150万円の見積もりが出て「高すぎる」と言われ、半額で納まるように四苦八苦したのだから。

しかし、部長から今回の金額については何も言われず、むしろ見積書を見ても穏やかな顔をしていた。
波さんは恐る恐る

「費用対効果は、大丈夫でしたか?」

と問うと、

「もともと家賃の発生しない部屋から、家賃を生む部屋へと変更しましたからね。家賃が47000円と仮定して、47,000円×12か月=564,000円÷180万円=31.3%という利回りです。」

と、部長はとても嬉しそうだった。

利回りの良し悪しについてのボーダーラインはあまり良く分からなかったが、「こういったやり方で収益を上げる方法もあるのだ」と波さんは感慨深く思った。

 

――――――― 終わり ―――――――

最後に、今回リノベーションしたお部屋の詳細を掲載しているページもご紹介しますね。

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最寄り駅は阪急長岡天神駅と西向日駅です。静かな住環境で、マンションの1Fにはお弁当屋さんがあり、道路を挟んで向かい側にはコンビニ「ファミリーマート長岡京野添店」があります。

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記事公開日:2020.02.17
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